アート活動をする県内施設・事業所 他
アートアクト - 14
Facilities for art activities
  
   
社会福祉法人前橋あそか会「ルンビニー苑」
 前橋市江木町1231 番地
 tel 027-269-1566

誰かの手に渡る喜び
商品としてのものづくりに向き合う

 「障害のある人たちがやりがいをもって打ち込める創作活動が必要」と声をあげ、長らく休止していた創作活動の班を復活させたのは4年前。生活介護事業を展開する入所施設「ルンビニー苑」では現在、利用者の日中活動として創作班と音楽班の2つを展開しています。今回の取材では、グッズ制作と販売に力を入れる創作班の現在の活動と、課題、今後のビジョンについて伺いました。

 「利用者の得意なこと、好きなことをそのまま生かそう」という考えから、2019 年に設けられた創作班。現在は利用者の日中活動として、「商品」として販売する編み物やドライフラワー 制作、紙ちぎりのランプシェード作りなどを行っています。完成した商品は、前橋福祉ショップ「みんなの店」にて展示販売。また、2023 年に新規オープンした「道の駅まえばし赤城」内のショップ「SHOP CAFE Qu」では、特別注文を受けて利用者が編んだクッションカバーが店内のインテリアに使われています。
  編み物が好きなメンバーが集まった編み物チームでは、毛糸やTシャツヤーンでポシェットやクッションカバー、ひざ掛けなどを編んでいます。最近取り入れたTシャツヤーンは、職員や利用者が着古したものを持ち寄り、自分たちで裂いて作るところからが仕事。裂くのが好きな人、編むのが好きな人、と役割を分担してみんなで商品を作っています。
 ドライフラワーチームでは、毎週届く季節の花をドライフラワーにして、壁飾りの花束やリースなどにアレンジして販売。「ルンビニー苑では毎週木曜日に花屋さんから季節のお花が届きます。お花が好きな利用者さんが多いので、余暇活動として思い思いに花瓶に活けては食堂に飾って楽しんでいました。5日間ほど鑑賞したら、そのまま捨てるのはもったいないので、ドライフラワーにして販売しよう!と始めたものです」と職員の野中里美さんは話します。 昨年からは、紙ちぎりが大好きな利用者が入所したのをきっかけに、ちぎった紙を風船に張り付けて型を取るランプシェード作りにも挑戦。「10 月には、法人全体で行う地域イベント『イエローフェスタ in ASOKA』が開催されるので、そこでの販売に向けて試行錯誤中です」計画を練っています。
 創作班を再開させよう、と動き出した時「利用者にできることはなんだろう?」と考え最初に導入したのが編み物でした。普段から利用者の様子を側で見てきた野中さんは、余暇の時間に編み物をする人が多いと気づいていたため「作ったものを売ったり展示したりすることが、 生きがいや楽しみになればいいなと思っていました」ときっかけを話します。
 創作班を始動するにあたり、まずは活動時間を日常に定着させることが、利用者たちにとっての大きな一歩でした。決まった時間に集まって活動するという生活リズムを作るのは時間がかかりましたが、現在は午前10 時から約1時間半の活動にも慣れてきました。制作したものが販売につながったのは、活動が始まって1年ほどが経った頃。最近では「商品を仕上げることに集中するため、利用者にも職員にも『頑張らなきゃね』という共通の意識やまとまりが出てきたように感じます」と青木園長は変化を話します。
 創作班の活動の軸は、商品を制作して販売すること。将来的なビジョンを尋ねると「利用者さんの作品を、もっと多くの人に知ってもらいたいという思いはあります。いろんな人やお店とつながっていければ」といい、そのための営業活動は自分の役目、と青木園長は意気込みます。 創作活動を軸に、外とのつながりを築いて社会参加していくこと。支援の輪や活動の幅を広げ、 知ってもらうことは社会参加のための第一歩ですが、その先には「続けていく」ための課題があり、それが「商品としてのクオリティを高めること」だといいます。「『障害のある人が作った作品だから素敵』という位置づけのまま売り続けるのは難しい。利用者さんが長く作り続けられて、売り続けるためには、ものづくりのクオリティを高めることが重要と考えています」 と将来を見据える青木園長。そのために大切にしていることは、利用者たちのモチベーションをあげること。実際に店舗で売られている様子を見ることで、商品が誰かの手に渡る嬉しさ・ やりがいを実感することが、作り続けていくための原動力となります。「ブランケットを編んでくれる利用者さんはとても意欲的で、『あれ売れたかな?』と気にしたり、編み間違えたら『やり直そう』と作り直したりして。自分は商品として編んでいるんだ、という意識をひしひしと感じますね」と、野中さんは利用者さんの心の変化を嬉しそうに話してくれました。

   

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取材日:令和5年(2023 年)3月30 日(木)
文:鎌田貴恵子 写真:カナイサワコ