アート活動をする県内施設・事業所 他
アートアクト - 13
Facilities for art activities
  
   
社会福祉法人明清会 「ガーデンタイム」  
 前橋市荒子町字堤下109 番地
 tel 027-226-6660

アートでも、アートじゃなくてもいい
大切なのは一人ひとりにスポットが当たること

  カントリー調の建物が目を引く「ガーデンタイム」は、2013年に開所したベーカリー併設の就労継続支援B型の事業所。パンや焼き菓子を製造するベーカリー班、季節の野菜を栽培する農業班、地元企業の仕事をお手伝いする受託班を展開しています。特別、文化芸術に重きを置いた活動は設けていないものの、昼休みにみんなで集まりイラストを描くのがちょっとした楽しみ。制作したイラストは、障害福祉×デザイン でプロダクト制作に取り組む「想造楽工(そうぞうがっこう)」とのコラボによって商品化。美術館「アーツ前橋」1階にある同事業所運営のミュージアムショップ 「mina(ミーナ)」で販売しています。

 ガーデンタイムは、パン作り、農業、軽作業がメインの就労継続支援B型の事業所ですが、創作が好きな利用者たちが余暇の時間を使って独自にアート活動を行っています。障害福祉×デザインでさまざまなプロダクトを生み出す「想造楽工」のパートナー事業所に選ばれたことも、 活動の後押しに。2021年からスタートした「想造楽工」とのプロジェクトに取り組む現在は、絵が好きな利用者たちが、依頼される「旅」や「プロレス」といったさまざまなテーマにあわせて原画を作成するイラストレーターとして、のびのび才能を発揮しています。  
「普段の仕事以外で、それぞれの得意なことにスポットライトが当たり、力を発揮できたらいいな」という発想が、ガーデンタイムのアート支援の始まりに。そのきっかけは「たまたま絵 を描くのが好きな利用者さんが複数名いたことでした」と話すのは、利用者のアート支援に携わる職員の齋藤拓さんです。
 例えば「あや先生」の愛称で親しまれる利用者は、少女漫画のタッチが得意。ベーカリーのポスターやチラシにもたびたび挿絵を描いていました。またほかにも、ベーカリーの商品に手描きのイラストでお礼状を添えたりと、絵を描くメンバーは多くいました。なかでも「ゆうさん」と呼ばれる男性利用者は、人の特徴を捉えた独特なタッチの似顔絵を描き、周囲からも一目置かれる存在。「ゆうさんは、その辺の紙を見つけると衝動的に絵を描いてしまう人でした。だから、『彼の絵がステキだな』と気づいていた職員は多かったし、いろんな人が『彼の絵っていいよね!』 と惚れ込んでいました」という齋藤さん。「そんな彼との出会いが、ガーデンタイムでもアート支援という動きをしてみよう、と乗り出す大きなきっかけを作りました」と振り返ります。
転機となったのは、芸術祭「中之条ビエンナーレ」の開催があった2021 年。ガーデンタイムが運営するミュージアムショップ「mina(ミーナ)」の店内に、同イベントのサテライト型ポップアップストアを展開したことで、出展団体のひとつだった「想造楽工」との交流が始まりました。「想造楽工」では、全国各地の福祉事業所とつながり、障害のある人によるアートを活用したアパレルや雑貨、商品パッケージといったさまざまなプロダクトを生み出しています。ビエンナーレをきっかけにつながったガーデンタイムでも、プロジェクトが始動し、すでにゆうさんをはじめとした利用者4名とのコラボが実現。彼らの作品はさまざまな形となって世に出ていき、注目を浴び始めています。「ほかの利用者の作品も世に出ていけるよう、サポートできれば。それがガーデンタイムのアート支援の形です」と斎藤さんは話します。
 ただ、利用者たちのイラストレーターとしての活動を後押しするなかで、気をつけなければならないことも。「作品だけが先行して本人にスポットライトが当たらなかったり、製品が売れればいいという気持ちだけが先走ったりすることのないように。大切なのは、一人ひとりの個性が注目され、その人の持ち味が生かされながら社会とつながり、本人の生活が潤うこと。いつまでもそこを間違えないようにいたい」と信念を語ります。 支援の形は、アートに限らないというのも、斎藤さんの大切にしたいスタンスのひとつ。「それこそ絵じゃなくたって構わない。音楽だってなんだって、その人の才能や持ち味が生かされながら、本人のためなることがいちばんの願いです」。

   

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取材日:令和5年(2023 年)2月1日(水)
文:鎌田貴恵子 写真:横山博之(PIRO PHOTO WORKS)