アート活動をする県内施設・事業所 他
アートアクト - 12
Facilities for art activities
  
   
中之条町手をつなぐ育成会 「なかんじょアートミーティング」
 吾妻郡中之条町大字中之条1091
(社会福祉法人中之条町社会福祉協議会)
 tel 0279-75-8839

生み出されたものは一つひとつが唯一無二!
そう気づかせてくれたアートの時間

 毎週第二土曜日の午後、中之条町とその周辺地域に住む障害のある人たちが集まるアトリエ「なかんじょアートミーティング」。知的障害のある子供を持つ親たちの会「中之条町手をつなぐ育成会」と、中之条町社会福祉協議会が手を取り合い、障害のある人の余暇活動を支援しようと2016 年7月に一歩を踏み出した、まだまだ若い団体です。
 アトリエは、草木が生い茂る豊かな自然の中に佇む旧幼稚園舎の「伊参公民館(いさまこうみんかん)」。ここに「ながのアートミーティング」から講師の佐々木良太さんと美加さんを迎え、月に一度のアートの時間を提供しています。

 木の温もりに包まれた旧幼稚園舎の一室に集まるのは、小学校低学年の子供から大人まで幅広い年齢層のメンバーたち。墨や絵の具や色鉛筆など、それぞれが好きな画材を手に取り、約1時間半のアートの時間を過ごします。中之条町とその周辺地域に住む知的障害のある人が中心ですが、それ以外にも年齢や住んでいる地域、障害の有無を問わず、来たい人は自由に参加 できる、地域に開かれたアトリエとして運営しています。
 「嬬恋村で障害のある人によるアートに取り組む『アトリエもく』で初めて作品を見た時、そのダイナミックさに驚きました。それは『この人でなければ作れない作品がある』と知ると同時に『私たちの子供にはこういう力があるんだ』と気づかされた瞬間でした」。アート支援に着目したきっかけについて、「中之条町手をつなぐ育成会」会長を務める田村妙子さんは話します。 障害のある人によるアートとの出会いから、子供たちのまだ見ぬ才能と可能性を考えた時「私たちの子供はいったいどんな作品を作るんだろう?という期待とワクワクで胸がいっぱいになりました」。当時会長だった松井八重子さんは早速、嬬恋村でアート支援を行う「ながのアート ミーティング」の関孝之代表に講師を依頼。まもなく「アトリエもく」の活動日と同日の午後に、中之条町でのアートの時間「なかんじょアートミーティング」がスタートしました。
 活動を通じて見えてきた、それぞれの個性や、好きなものへのこだわり。季節の移ろいを知らせる植物や果物の絵を描くのが好きな田村翠さん。生き物、特に鳥や魚が大好きで、図鑑を見ながら独自のタッチで描き出す大畑賢一さん。小学校で覚えた数字に魅了され、小さな紙に1から描き始めた数字は今や億の桁まで到達している3年生の阿部創磨くん。ほかにも、サービスエリアや道の駅の多目的トイレに強いこだわりを持ち、各地のトイレを忠実に再現した絵を描く、不思議な才能を発揮するメンバーも。見たものを画像として記憶に焼き付けるため、中国語や英語の注意書きまで忠実に再現する能力には、親たちも驚いているといいます。
 「親たちは、子供たちの絵が芸術作品になるなんて、初めは思いもしませんでした」と振り返る田村さん。子供たちの自由で大胆で個性的なアートに慣れていない親たちにとって、次々と生み出される作品は「らくがき」のように見えていたといいます。それが次第に唯一無二のものへと変わっていきました。地元の芸術祭「中之条ビエンナーレ2019」で初めて作品が展示 され、その光景を見た子供たちの心にも「自分は展示するために描くんだ」という意識の芽生えを感じたといいます。また、昨年2度目の「中之条ビエンナーレ2021」参加を経験した際には、「こんなふうに見せたい」という展示方法へのこだわりや「前回とは違う作品を展示したい」という、表現者としての顔も見せるようになったといいます。
 「作品数も増えてきたので、次はそれを活用して商品化できれば、より多くの人に知ってもらえて、メンバーたちの励みにもなるはず」と今後への思いを明かします。そう考えたきっかけは、「このイラストのTシャツがほしい」「玄関先や階段の踊り場に飾れるようなサイズのものがほしい」といった、見に来てくれた人たちの作品を評価するさまざまな声でした。「なるほど、そうやって商品化すれば皆さんの手元に子供たちの作品が届くようになるのか」という発見があり、今後は気軽にお土産として持って帰れるようなグッズ制作の構想を練っています。ただ、そのためには資金確保や運営母体の人手不足といった課題もあり、今後は地域のほかの団体とも連携しながら、できることを分かち合っていきたいという考えがあります。
 余暇活動から始まった「なかんじょアートミーティング」の次なるステップは、地域と連携した活動の発展と、そこから生まれる障害の理解、そして障害があっても安心して住み続けられる地域をつくること。発展途上の「なかんじょアートミーティング」は、これからの進化がとても楽しみな団体です。

   

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取材日:令和5年(2023 年)3月11 日(土)
文:鎌田貴恵子 写真:横山博之(PIRO PHOTO WORKS)