アート活動をする県内施設・事業所 他
アートアクト - 11
Facilities for art activities
  
   
障害福祉サービス事業所 ぴっころ
 群馬県利根郡みなかみ町月夜野644-2
 tel 027-226-1039

描く楽しさと誰かに使ってもらえる喜び
一人ひとりの個性を活かす協働

 標高600mを超える山間にある「障害福祉サービス事業所ぴっころ」では、日が差し込む部屋にてそれぞれが自分の仕事と向き合って過ごしています。パンを作ったり、縫い物をしたり、絵を描いたり。商品として売られ、様々な人の手に渡る彼らの 制作物は、素朴で温もりがあり、つい手に取りたくなってしまいます。

 2001年に設立された「ぴっころ」は、周辺地域で暮らす主に知的障害のある人たちが通ってくる場所。作業は食品、製造販売、請負の3種類を行なっています。パンやクッキーを作ったり、 オリジナルグッズを作ったり、頼まれたさまざまな仕事をこなします。毎日同じ仕事をするのではなく、今日は絵を描く日、明日は縫い物、明後日はパン、とローテーションを組み、それぞれに全員で関わります。請負も単発なことが多く、日々流動的な作業。そのなかで、絵を描いてオリジナルグッズを作ることを5、6年ほど前から始めました。板の上に描かれたキャラクターはマグネットに。小麦粉袋に思い思いに描かれた絵は、エコバッグになります。商品制作は絵を描く人、素材をカットする人、ニスを塗ったりミシンで縫ったりと分業化。多くの人の手を経て、商品は作られています。管理者の河合智久さんは「購入者が声をかけてくれたり、 人気が出た商品を制作者に伝えてあげたりすると、喜びがやりがいにつながるんです」とお話しされていました。
 設立した当時から木工製品は作っていましたが、作業にも波があり、手が空いた時や余暇などにステンシルで描くことから始め、少しずつ幅を広げていきました。もらった粘土で陶芸制作をしていた時期も。粘土の時には分かりづらくても、焼いてみるととても面白い形がたくさんできて、近隣の作業所が集まった陶芸展に出品もしました。コロナ禍で陶芸ができなくなった時には、利用者の「やりたい!」という気持ちが強く出て落ち着かない時期もありましたが、 絵を描くことや別の作業にシフトすることで、制作の場を提供し続けたそうです。描くことや作ることが好きな利用者は休憩時間も何かしら制作していて、一人の利用者に見せてもらった ノートには、びっしり細かく日常の出来事が書き込まれ、まるで文字で作り出す絵画のよう。 事業所以外でも紙粘土作品を作ったり、水墨画を描いたりしている方もいます。
 「楽しい」という気持ちが制作を続けるモチベーション。反対に何かを作ることが苦手で、考えた上で自分にはできないと判断する人も。商品作りには全員で関わり、売り上げの収入は全員に配分する、という方針の「ぴっころ」では、できる作業を個別で担ってもらい、協働で作り上げます。マグネット作り1つとっても、下絵を描く人、色を塗る人、カットする人、ニス を塗る人、マグネットをつける人、廃材を利用した台紙を作る人、袋詰めする人、とたくさんの作業工程があり、本当にたくさんの人の手を経ているのがわかります。商品の顔であるモチーフは自由なので、好きなように描きます。マグネットには色鉛筆を使って優しい色合いで動物や妖怪を描いたり、エコバッグには手をつないだカラフルな人々が配置されているかと思いきや、別のものには丸だけで構成された抽象的な絵柄のものもあったり。描く人それぞれの特徴が出ていて、どれもおしゃれに仕上がっているので、選ぶ側も迷ってしまいそう。現在制作中の熊よけの鈴やキーホルダーも見せてもらいました。猟師さんから鹿のなめし皮を購入して、 作業所でカットし、鈴をつけ、袋に入れるという作業工程。これにもたくさんの人が関わっているのだそうです。
 最後に見せてくれたのは、スタッフの一人がパソコンで利用者の絵を取り込み加工、レイアウトした可愛いポチ袋。その絵がとても魅力的だったので、実物を見てみたいと思い「原画はありますか」と尋ねたらちょうどその時は手元になかったものの、「グッズの販売会などで原画を飾るのもいいですね」という話になりました。今までは額に入れて絵を飾ったり、作品そのものとして販売したりしたことはないそう。利用者をアーティストとして支援し、作品販売実績のある事業所が全国にあることは知っているけれど、それを実際に行うにはまだ高い壁があります。協働で作られたグッズの売上を分配することを大切にしていきたいし、アーティストの支援を限られたスタッフの中でやっていくのは難しい。考えなければいけないことはたくさんあります。今はまだたどり着けていない道ですが、今後の取り組みを前向きに模索しているところです。
 

   

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取材日 令和5 年(2023 年)3 月8 日( 水)
文章・写真 カナイサワコ