●NPO 法人あめんぼ
群馬県桐生市新宿3-6-25
tel 080-5649-2676
あめんぼの活動は、
1枚のT シャツから始まった
2011年 3月。代表の野村裕子さんが「あめんぼ」を立ち上げる前のこと。当時、支援学校高等部 1 年だった息子の倫太郎さんによる絵が、一人のデザイナー(後に
あめんぼ初代代表となる金子義弘氏)の目に留まり、T シャツができあがりました。
これを初めての製品として世に出そうとしていた時、東日本大震災が発生。急遽、チャリティーTシャツとして販売を開始し、収益から10 万円の寄付が実現。誰かに力を借りるばかりと思っていたわが子が「誰かの役に立てる」ということを知る出来事となりました。
このことをきっかけに「障害者」と呼ばれる人たちの表現をもっとたくさんの人に知ってもらおうと、「あめんぼ」は様々なことに取り組み始めました。
「あめんぼの主な活動は?」という問いかけにはいつも「お茶会です」と野村さんは答えます。
活動には「障害者」と呼ばれる子を持つ家族、主に母親や兄妹、時には父親や祖父母などもやってきます。立ち上げ以来、野村さんの自宅での「お茶会」が基本でしたが、今では「あめんぼ
room」という常設の拠点ができ、ランチやティータイムにおしゃべりを楽しんでいるそうです。
そんな時間の中から、子どもたちが日々の暮らしの中で巻き起こす『問題行動』と言われるような行為や、言葉の代わりに出てきた絵や暗号のような文字や色などを彼らの『心のメッセージ』
として捉えることができるようになったといいます。
そこから、多くの人たちに彼らの存在や彼らの想いを伝えていこうと、展覧会などのイベントへと発展。彼らの表現は展示作品や、製品の素材のデザインというステージに立ち、「アート」と呼ばれるようになっていきました。
以前、「象の貼り絵を作ったことがあったのだけど、筋力がだんだんと弱まり、今は何も作品を作らないから…」と仲間に入るのをためらっている親子がいました。そこに、あめんぼに関心を持ってくれていたデザイナーのnemographics 氏が母親に「彼は今どんなことが好き?」
と問いかけたところ、「唯一やっているのは、レシートを毎日ただ握っていること」と伝えたそうです。「ほとんどの人はゴミを握っているだけとしか捉えないかもしれないその行為を、nemographics氏は『彼にとって毎日握りたいほどのレシートの魅力とはどんなものなのだろう』と感じたみたいで。ぐしゃぐしゃになったたくさんのレシートを持ち帰り、後日ボックスにレシートをガサっと入れ込み、『作家さんのレシートの魅力をみんなで体感してみようボックス』というものも作ってくださいました」と、野村さんはお茶会での印象的な出来事を聞かせ
てくれました。
「こんな風に『作品』と思えるようなものをわが子が生み出せないと思ってボーダーを引いてしまい、ここへ訪れることさえとまどってしまう家族に「気軽にお茶しに来てね」と声をかけてあげたい。そして共に過ごす時間を作ってくれたら、子どもたちの素敵な可能性に私たちも
一緒に気付くことができると信じています」。それこそが、あめんぼがお茶会という形にこだわる理由なのだといいます。
そんな野村さんの息子・倫太郎さんは、2歳半で英語をいきなり布団に書き上げたのだそう。
「経験から自閉症ではないか…とずっと感じていたのですが、2歳半で、いきなり書いたものが
英語だなんて…これからどんなことが起こるんだろう!とワクワクしてしまいました」と振り返ります。
あめんぼが「お茶会」の中から生み出し、継続しているイベント企画や商品企画は、そうしたワクワクを体現する場として機能しています。市内のカフェ「伊東屋珈琲」では 2015 年秋
に初めての展覧会を実施。反響が大きく、その後も「アートとは何か」「障害とは何か」をテーマに作品展示や製品販売を行う障害者芸術活動支援「NONART(ノンアート)展」を毎年秋に継続しています。製品づくりについては、地元・桐生の企業との協働にも注力。「創業 110
年の機織り屋さん『SUSAI 須裁』さんからは、あめんぼ作家のデザインを取り入れたいとお声がけをいただき、ジャカード織が実現しました。手捺染(てなせん)という技法で一枚一枚布
に型で染め上げる『桐生てぬぐい』さんともコラボが実現し、あめんぼ作家全員のオリジナル
手ぬぐいを制作していただいてます」。
お茶会や定期的な展覧会・イベント、企業と組んだ商品づくりによって、日々の創作活動にも人とのつながりやアイディアがもたらされていくこと。当事者にとってありのままの姿であ
ること。こうして生まれた作品がまた新たなカタチに活かされていくこと。 そんなポジティブな循環が、ここ「あめんぼ」に生まれ始めているようです。