アート活動をする県内施設・事業所 他
アートアクト - 09
Facilities for art activities
  
   
NPO 法人 麦わら屋
 前橋市高井町1-30-3
 tel 027-226-1039

「アートを通して
地域との接点を増やしていきたい

 元々福祉の事業所で働いていた小野介也さんが2015年に立ち上げた「麦わら屋」。 前橋市と吉岡町を結ぶ産業道路から西側に入った工場やオフィスが立ち並ぶエリアに、作業所とアトリエがたたずんでいます。
 「どうしたら利用者さんの望む作業ができるか」「どうしたら利用者さんの工賃を上げられるか」。小野さんたちが模索し続ける中で、多岐にわたる就労支援と、アート活動班を中心とした芸術活動という2つの軸が形成されてきたそうです。こうした取り組みが利用者のやりがいや楽しさを生み、それが施設内に留まらず、地域にも浸透し始めていることがわかりました。

 「以前働いていた福祉事業所は、人けのない山の中にありました。人の目に触れる機会がほとんどない場所で、施設内だけで活動やコミュニケーションが完結していました。そうした環境で過ごしているうちに、利用者さんや施設の職員が地域に出て行き、障害のある人と地域の人たちとが互いの存在を感じる機会をもっと作っていきたい、という気持ちが強くなっていきました」。小野さんはこの想いを実現しようと奔走する中で前橋市内の物件に巡り合い、就労継続支援B型と就労移行支援のサービスを提供する定員20名の事業所をスタートするところまでこぎ着けました。
 就労支援としては、食品製造班(味噌・麹製品・豚肉加工)、外作業班(メダカの繁殖販売・ 野菜の栽培・公共施設や私有地の除草)、軽作業班(ギフト箱折り・DM 封入等)といったグループごとの作業が中心でしたが、ある日、利用者全員にレクリエーションとして絵を描いてもらう時間を設けました。「このとき、『これは作品になる。すごい』と感じさせられるような絵を描く人が何人かいて。その後、絵を描く時間を少し増やしてみたら、利用者さんの表情が良くなり、作業に取り組む姿勢も明らかにいい方向へ変わりました。その体験から『せっかくなら 芸術活動を仕事にできないか』という発想に繋がり今に至ります」。
 作業内容を日々改善・模索する中で始めた芸術活動でしたが、結果的には麦わら屋全体の意識を変えることにも影響を与えました。「『互いを認め合う』『分けない』といった麦わら屋の理念を根付かせるきっかけにもなったのです」と小野さんは話します。「アートを始めたことで、 普段施設の中にいるだけでは出会わないアーティストや専門家、地域の方々とのコミュニケーションが生まれています。色々な人やアイディアに出会うことができるようになったからか、 利用者さん自身の考え方も、以前より柔軟になってきたように感じます」。施設内での芸術活動があることによる様々な変化を肌で感じている小野さん。最近は、地域の人が麦わら屋の中にふらっと入って来てくれるような雰囲気を作るため、試行錯誤を続けています。「以前の夏祭りでは、近所の畑を舞台に巨大迷路を作りました。来てくれた子どもたちには迷路と共にスタンプラリーを楽しんでもらいました」と話す小野さん。事業所の敷地内ではフランクフルトやかき氷など祭り定番の屋台を複数出店。「地域のみなさんがふらっと立ち寄りやすい雰囲気が、少しは作れたかなと思っています」と笑顔を見せます。
 「とにかく、利用者さんを知ってもらいたいという気持ちが開業当初からの願いです。職員もご両親も『迷惑をかけるから』と外へ出て行くことや他者とのコミュニケーションを遠慮してしまう方が多いのですが、まずは利用者さんのことを地域の皆さんに知ってもらうことが第一」 といいます。最近では、ここに在籍しているような子と、知的障害のない児童・生徒さんが学校で一緒に過ごす時間がなくなっているそうです。障害のない子どもたちは知的障害のある人たちと関わる機会がなく、その分慣れることもなく。ゆえにどう接して良いのかがわからないという状況が広まっているように思います。「だからこそ積極的に地域へ出て行って、ご近所さんにもイベントのチラシを渡して。芸術活動を通して地域の人・身近な人たちとの接点・コミュニケーションの機会をこちらから作っていくことで、私たちと地域の人たちが一緒に過ごす時 間を増やしていきたい」と思いを語ってくれました。

   

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取材日:2023 年2 月27 日
文:竹内ヤクト(ONOBORI3) 写真:横山博之(PIRO PHOTO WORKS)