アート活動をする県内施設・事業所 他
アートアクト - 08
Facilities for art activities
  
   
一般社団法人メノキ 代表 三輪途道
 甘楽郡下仁田町東野牧2635-1
 tel 0276-88-6700

「作り続ける」ために、「美術を楽しむ」ために
作家として見えないことに向き合う

 少年少女たち、ふっくらとした猫、脱いだ後の衣服・・・見えなくなる前に作った 着彩された木彫たち。三輪さんの作品のたたずまいは、凛とした空気をまといながら もお茶目な表情を見せてくれます。視覚に障害を抱えた三輪さんが、彫刻することを手放さないために、できることを自ら考え、実践し、周囲と展望を共有してできたのが「メノキ」です。設立してまもない「メノキ」ですが、今後さらに広がりを見せる アイディアを沢山持っています。

 三輪途道さんは根っからの彫刻家です。それは目が見えなくなった今でも変わりません。
 以前は主に木彫で作品を作っていましたが、徐々に視力を失っていく過程で、刃物を扱うことや、彫るという行為が困難になりました。現在は粘土で原型を作り、表面を漆と麻布で固め、粘土を抜き取った脱乾漆という技法にシフトしています。最初は粘土の中にビー玉を埋め込み、そこを基準に距離を測りながら造形していましたが、徐々に進化して今ではビー玉がなくても作りたい形ができるようになったそうです。ただ、一般的に漆を扱う際は手袋などの装備をしてから行いますが、手の感覚を頼りに細かな作業をする三輪さんは素手で漆を扱います。「皮膚についた漆でかぶれ、いつも全身かゆくなりながら作品を仕上げます」と、制作における苦労を打ち明けつつも、黒や少し赤味がかった色の漆で仕上げられた作品は、そんな苦労を感じさせないくらい、変わらずお茶目な表情ばかり。作品は一抱えもある巨大なお煎餅やしじみの大家族、全身に凹凸のある仏像など、三輪さんの身近にあるものをモチーフにしています。「作ることは日常生活の一部であり続け、死ぬまで作り続けたい」と話す三輪さんの眼差しからは見えなくなったことで起きた変化をポジティブに制作に変換しようとする強い意志が感じられました。
 2021年に、「LOW-VISION BOOK」という本がクラウドファウンディングを経て出版され ました。晴眼者も視覚障害のある人も読むことができる本。左からめくった時には見えづらい人のために文字や写真を工夫した作りになっていて、右からは見える人が読みやすい作りになっています。本では三輪さんがかつて関わった仏像修復の話や文化財についての話も書かれてい ます。『祈りのかたち』 (※1) と名付けられたこの本の出版に携わったメンバーが、その後すぐ に「一般社団法人メノキ」を立ち上げました。作家の三輪さんを代表に、デザイナーや編集者、 ライター、教諭といった多様な職種が集まり、それぞれがスキルを活かして活動に関わってい ます。
 (2022 年には、ライターの立木寛子さんが書いた文と三輪さんの作品で構成された「みえるってどういうこと?」をテーマにした絵本『みえなくなったちょうこくか』 (※2) を出版。同年、すべての作品に触ることができる彫刻の展覧会(※3) も行われました。展覧会では、実際に作品を撫でて質感を感じたり、素材の匂いを嗅いだりすることが可能。会期中には鑑賞ワーク ショップも行われ、晴眼者と視覚障害のある両者が入り混じり、一つの作品についてじっくり意見を交わしました。「鑑賞アテンドにおいて、どのような素材で色は何色である、といった作品の詳細を説明するよりも、その作品を見たときに頭の中に広がるイメージ、例えば『静かな森』 や『寒そうな空』のように伝えるのが大切」。そうお話されていたことが強く印象に残りました。 イメージのやり取りをすることで会話が発展し、より鑑賞を楽しめるから、と。
 今後はこうした鑑賞アテンドができる人材育成に向けて、メノキと群馬大学が共同でプロジェクトを実施予定。「美術館ごとに別々で活動していた鑑賞ボランティアの枠を越え、群馬県を一つの美術活動の場として機能させていきたい」という思いを持っています。助成金や補助金を活用しながら、鑑賞アテンド人材育成をはじめとした様々なプロジェクトに向けて、準備の真っ最中。そのひとつには、群馬県人なら知らない人はいない「上毛カルタ」を視覚障害のある人でも一緒に遊べる札に改良する案があります。また今年も新たな本の出版も予定。視覚障害を 持っている人だけに留まらず、障害を持っているすべての人に「美術は楽しいんだよ!」と伝える取り組みをしていきたいと楽しそうに語ってくれました。
 鋭意制作中の少女たちの像は、今後の中之条ビエンナーレや美術館の展覧会に出品予定とのこと。完成してお目見えする日も近いその作品を「早くこの目で見て触れてみたい」とウキウキしながらアトリエを後にしました。

   

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取材日 令和5年(2023 年)3月1日( 水)
文章・写真:カナイサワコ
※1 三輪途道 『祈りのかたち』 上毛新聞社刊 2021 年9 月10 日( 初版)
※2 ぶん・立木寛子/ ちょうこく・三輪途道『みえなくなったちょうこくか』 メノキ書房刊 2022 年7 月28 日( 初版)
※3 見えない人、見えにくい人、見える人、すべての人の- 感じる彫刻展-「触る・聞く・嗅ぐ・話す・見る」2022 年10/3~29
  三輪途道個展、11/7~12/3 グループ展 ( 株式会社ヤマト本社1F ギャラリー/ 前橋)