アート活動をする県内施設・事業所 他
アートアクト - 02
Facilities for art activities
  
   
社会福祉法人かんな会 障害者支援施設「かんなの里」
 藤岡市下栗須887-1
 tel 0274-24-5885

好きなことをして生きる喜び
かんなの里が見出したアート支援の意義

 「障害を持っていても充実した日々が送れるような、そんな関りを持てたら」。特別 支援学級の教員を経て「障害のある人たちのためになにかをしたい」という思いを募らせていた前施設長・島野信美さんが発起人となり、1999 年4月に障害者支援施設「か んなの里」は誕生しました。
 作業班「アート工房R」では毎日の日中活動のなかで、絵画や機織り、編み物、和紙のはがき作り、貼り絵といった多種多様な創作活動を実施。コロナ以前は、毎年恒 例の文化祭や納涼祭などで絵画展を開いたり、手芸品をバザーで販売したりと、地域に向けた発信が活発でした。

 創設当初からアート活動を作業に取り入れている「かんなの里」ですが、そのきっかけとなったのは、絵画が好きだった一人の職員の発案でした。「作業に絵画を取り入れたい」と手をあげた職員が中心となり結成されたのが、日中活動の作業班「アート工房R」。メンバー8名ほどで スタートしたアート活動は、かつてここで暮らした大久保寿さんや秦野良夫さんといった、後に世界へ羽ばたいたアーティストも数多く輩出してきました。
 「メンバーの中には、前の施設ではクリーニング班で洗濯物をたたんでいたという人も。絵を描いたことがなかったようなメンバーが初めて絵を描きました。画用紙を渡すと職員が教えることもないままに、予想を超えるユニークな絵が飛び出してきたんです」と現施設長の島野健 太郎さん。利用者たちの秘めた才能に触れた瞬間の鮮烈な記憶をたどります。
 活動の転機となったのは2000 年9月。「日本障害者芸術文化協会(現・NPO法人エイブル・ アート・ジャパン)理事のサイモン順子氏が足利のルンビニー園を訪問する」という雑誌の記 事を見た信美さんは、アート活動の担当職員と共に、利用者たちの絵を携え、会いに行きました。 その出会いがきっかけとなりサイモン氏との交流がスタート。「これは素晴らしい絵だから、絵画展をやってみませんか?」と後押しを受け、翌年の4月には地元の文化複合施設・みかぼみ らい館で初めての展覧会「いのちのよろこびアート展」を実現しました。「当時はまだ、障害の ある人たちが脚光を浴びる機会は少なかった時代。本人も家族も、とても嬉しそうでした」と懐古する信美さん。発表の場を設けたことは「この子たちってこんな絵を描くんだね」と注目を集めるきっかけにもなりました。滋賀県近江八幡市にあるボーダーレスアートミュージアム「NO-MA」での企画展参加や個展の開催を経て、活躍の場は世界へ。2010 年3月、大久保 さんの「顔シリーズ」と秦野さんの古民家の絵がフランスのパリ市立アル・サン・ピエール美術館で開催された「アールブリュットジャポネ展」で展示されたときのことを職員たちが誇らしそうに話す様子が印象的でした。
 「アート工房R」のメンバーには、まだまだ多彩な才能の持ち主がたくさん。開設当初からの古株の一人、辻野雅彦さんは、独自の感性で描き出す模写が得意なアーティスト。模写といっても写真を見たままに写すのではなく、見たものを独特のビジュアルに変換してアウトプットするのが特徴です。日々の気持ちの浮き沈みのなかで、まったく異なるタッチや色彩を表現するのも不思議な魅力。時期によってモチーフや画材にもブームがあり、カラーペンを用いたイラストタッチの美人画を描いていた時期もあれば、取材した日はとある旅雑誌の風景写真を見 ながら、いくつもの色鉛筆で無数の波線を黙々と描いていました。最近では身体機能の低下が 進んでいるものの「歩行器を使って自ら部屋を移動してまでも絵を描き続ける、絵に対する情熱は消えません。自分の好きな活動ができるということが、生活意欲の維持や精神の安定につながっていると強く感じます」。そう健太郎さんが感じているように、アート活動が利用者の生きる張り合いとなっていることこそが、何よりの意義なのかもしれません。
2022 年4月には、「かんなの里」から車で5分ほどの場所に通所施設「すずかけ」がオープン。「ゆくゆくはアート活動に特化した施設に」という思いを込めて、利用者たちが制作した膨大なアート作品を保管できる広い倉庫や、展示スペースとなるギャラリーを併設しています。「『すずかけ』を拠点に、利用者の作品を商品化して収益を個人に還元していく仕組みを作ることも目標です」。ビジョンを語るすずかけ施設長の信美さんが差し出してくれた名刺には、作品PRを兼ねて利用者作のユニークな似顔絵が添えられていました。商品化、企業とのコラボといったますますの広がりに向けて、かんな会の新たな夢は今、走り出したばかりです。

   

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取材日:令和5年(2023 年)1月23 日(月)
文:鎌田貴恵子 写真:横山博之(PIRO PHOTO WORKS)