アート活動をする県内施設・事業所 他
アートアクト - 01
Facilities for art activities
  
   
工房あかね アトリエ アート・オン
 高崎市本町10-1 イチカワビル4階
 tel 027-387-0011

「アートを仕事に」ボーダーレスな社会参加を目指して

 昔ながらのレトロな町並みが残る高崎市本町に建つオフィスビルの一角に、障害のある人のアート支援に取り組む「NPO法人工房あかね」のアトリエはあります。「工房あかね」の立ち上げは、代表・小柏桂子さんの息子がダウン症を抱えていたことが きっかけに。「障害があっても、好きなことを表現してより楽しい人生を過ごし、それが社会参加につながれば」という思いから、ボランティア団体として小さなプレハブ小屋で活動をスタートさせました。
 小柏さんの活動のターニングポイントは、1998 年の長野オリンピックにあわせて開催された、日本で初めてのアートパラリンピックでした。全国各地から集められた、さまざまな障害のある人たちによるアート作品には、思わず涙が零れ落ちるほど心を震わされたと、小柏さんは振り返ります。「今までは彼らのできないところばかりを見てきたのだと気づかされ、申し訳なさと作品への感動で胸がいっぱいに。その日の帰り道には『こういう才能がある子たちのための場所を高崎につくりたい』と決心を固めていました」。
 障害者手帳の有無にかかわらず、誰もが自由に訪れて好きな絵を描いて過ごせる絵画教室のような居場所として2000年に始動した「工房あかね」。日々の活動の傍ら、立ち上げ当初からサポートをしてくれていた現代アート作家と共に、県内各地の障害福祉サービス事業所を巡っては未来のアーティストたちの発掘活動にも精力的に取り組んできました。
 発掘活動で出会う才能豊かな利用者たちの作品を「もっと広く世に出していきたい」という思いが膨らみ、2002 年には同団体をNPO法人化。作品が集まるたびに地元ギャラリーで展覧会を開催し、定期的に発表の機会を設けることで、当時県内ではほぼ事例のなかった障害のある人によるアートでの社会参加の道筋を開拓してきました。
 「10 年以上かけて地道に発掘と発表をし続けてきたことが、ようやく実ってきたように感じます」と話す小柏さん。2014 年には「アートを仕事に」という決意と共に、現在の形となる 生活介護と就労継続支援B型の事業所「アトリエ アート・オン」を開設。ここでは知的・身体・精神に障害のある人たちが通所し、午前は絵画や手芸といった創作活動を、午後は散歩や美術館巡りといった感性を磨くレクリエーションをして過ごしています。  
「アトリエ アート・オン」が取り組むアート支援は、豊富な色数の絵の具や大きなキャンバスなどの家庭では揃わないようなたくさんの画材や、絵の具を飛ばしてもいい広い空間を用意すること。「教えることは特になく、あとは本人が持っている才能を引き出すだけ」。利用者それぞれが持つ独自のスタイルを自由に発揮できるよう環境を整え、発表の場を設けて外とのつながりを作り、道を拓くことが事業所としての役割なのだと語ります。
 利用者たちが手がけるのは、油彩・水彩・アクリル・色鉛筆・クレヨンなどの絵画や、刺繍・フェ ルトといった手芸、ワイヤーアートなどの多種多様なアート作品。制作された作品は、事業所 独自の定期展覧会「ART・ON展」をはじめ、全国の公募展・企画展などで発表するだけでなく、 ポストカードやポチ袋、プリントTシャツ、エコバックなどに商品化し、地元ミュージアムショップや物産館などで販売しています。作品が人目に触れ、評価され、利益につながっていくということは、本人の内面の変化だけでなく、周囲の人たちにも好影響をもたらすのも「アートの持つ力のすごさ」と小柏さん。「自分に自信がついて、描く線に迷いがなくなるように絵の技術も向上していく。その変化に家族が気づけることが、なによりのメリットかもしれません」。 ただ近年は、20年に及ぶ取り組みを振り返り「未だ福祉の領域を出ていない」と痛感している のも事実。「もっと企業や行政、地域ともコラボして、福祉を越えたつながりを生みたい」と願いながら、今後も「工房あかね」の地道な草の根活動は続きます。
 色鉛筆画に取り組む作家・中村天良さん(作家名)は、描くことが好きで自らこの事業所を探し通い始めて1年ほど。太陽をモチーフにした絵を得意とし、現在は数か月後に迫る展覧会「ART・ON展」に向けて初めての大作に挑戦しています。「色鉛筆は『描きたい!』と思ったらすぐに手に取れる手軽さと、濃淡をつけながら繊細な色を表現できるところが好き」と話し、愛用している48色の色鉛筆を見せてくれました。制作中の絵は、「ぽかぽかとした春の太陽のエネルギーを表現しています。エネルギーの広がりが、見ている人にも伝わればいいな」。そう作品に込めた気持ちをゆっくりと語る表情は、とてもやさしく穏やかでした。

   

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取材日:令和4 年(2022 年)12 月27 日(火)
文:鎌田貴恵子 写真:横山博之(PIRO PHOTO WORKS)